昨日(9/7)の勉強会は総勢25名が集まり、二次試験直前期の活況を呈して参りました。二次組はH13年に遡り、毎回事例Ⅰ~Ⅲで2事例、事例Ⅳを1事例「その場解き」を行っておりますが、欠席した場合や遠隔地会員は、解答をメーリングリストに投稿し、OBが公開でコメントを付けています。

その中で、H13年事例Ⅱ(エニグム)において、市場細分化の本質的理解につき、こんな議論が交わされましたので御紹介致します。

<本件の概要>

高級婦人服の製販を営むB社は、「エニグム」という高級ブランドを持ち、高品質で落ち着いた気品溢れるデザインが、30~40代のミセスに支持されていた。次期社長の専務(現社長の長男)は、「20代の働く女性をターゲットに、低価格でファッション性豊かなカジュアルを中心とした商品展開(但し、品質は良い)」を打ち出し、既存ブランドに因んで「プチ・エニグム」と銘打った商品を上市した。新規ブランドは、売り出しから好調な売り上げを続けたが、既存ブランドの売上は目に見えて減少した。POSデータからは、当初「若い女性」をターゲットとしていた新規ブランドの購買層が、実際は幅広い年代層に分布しており、新旧ブランドの市場はオーバーラップしていることが判明した。

<第2問>B社の市場細分化(market segmentation)について、次の設問に答えよ。

  (設問1)既存ブランド(エニグム)と、新規ブランド(プチ・エニグム)において、

     B社が重要視した市場細分化変数は何か。

解答 エニグム: 心理変数    プチ・エニグム:人口動態変数

(設問2)B社が用いた市場細分化変数には、どのような問題があるのか、簡潔に述べよ。

解答-1:問題は、新規ブランドの市場細分化に際し、既存ブランドと異なる市場細分化変数を用いたことであり、結果新旧ブランドの市場がオーバーラップした。

解答-2:問題は、新規ブランドの市場細分化に際し、既存ブランドと同一の市場細分化変数を用いなかったことであり、結果新旧ブランドの市場がオーバーラップした。

ここで論点は、解答-1解答-2同義か否かということです。

先ず、婦人服市場に対し、エニグムのターゲットセグメントを示します。

20130908_1

これに対し、①②③の全てに合致しない「非エニグム」領域から「プチ・エニグム」のターゲットセグメントを選んでいれば、新旧ブランドの市場は絶対にオーバーラップしません。(飽くまでも理論上の話です。実際はグレーゾーンがあります)

  従って、「同一の市場細分化変数を用いなかったこと」は、市場オーバーラップの原因として妥当であると言えます。つまり、解答-2は必ず成立します。

  では、「異なる市場細分化変数を用いた場合」は、必ず市場オーバーラップが生じるでしょうか?人口動態変数で、婦人服市場を細分化すると以下のようになります。

20130908_2
ここで、異なる細分化変数で細分化された市場を重ねてみましょう。

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この場合、「オーバーラップ」部分は、②の高品質という要素で重なっております。

従って、エニグムの顧客層で「高品質」を重視し、「高級品(高価格品)」への拘りがなく、「カジュアル」な要素が入っても構わない人はプチ・エニグムに流れる訳です。

  では、プチ・エニグムから「高品質」という要素を若干弱め、「低価格でカジュアル」という要素を強調したらどうでしょうか。この場合、新旧ブランドのセグメントは共通要素を失ったも同然ですから、エニグムの顧客層のプチエニグムへの流出は殆どなくなります。

このことは、「異なる市場細分化変数を用いても、オーバーラップが起こるとは限らない」ことを意味しており、解答-1は必ずしも成り立たないことになります。

 一見同じように見える解答でも、深く突き詰めると意図したものと異なった結果を導いてしまうことがありますので、慎重に検討して解答を導く必要があります。

 残り6週間、細部まで突き詰める意識を持って、事例問題に取り組んで参りましょう。

2013.9.8 本年度会長 永井廣