中小企業診断士の2次試験に合格後、中小企業診断士としての登録を行うためには、「実務補習」を受ける必要があります。それ以外にも「診断実務に従事する(実務従事)」ことでもその条件を満たすことができます。
現在私は、診断士登録に向けてこの「実務従事」に取り組んでいるところで、先日提案書の作成のために、チームメンバで提案書のレビューをしていたところ、こんなやりとりがありました。
<提案書の一部>
「営業は属人的スキルに依存し、全社として効率的で収益になる提案は出来ていない」という問題点がある。そのため、全社の営業戦略を明確にし、ターゲット選定、マーケティングを検討する必要があります。
Hさん:「Oさんの営業戦略に関する提案書案だけど、社長はこういう話をしていたかな?」
Sさん:「話題としては、あったと思うけど、こういう内容ではなかったと思う。」
Kさん:「Oさんの独自の解釈や思いが入ってしまっている感じがしますね。」
Sさん:「Oさんは、今日欠席だから確認できないけど、属人的っていう話はなかったですね。収益になる提案もヒアリングでは逆の内容だったと思います。」
Hさん:「社長に“こんなことは言っていない”と思われてしまっては、まずいですね。」
2次試験の与件文は、社長へのヒアリング結果と同じだと言われています。試験勉強をしているときには、「与件は大事なんだな」と思う反面、「少し解釈を変えても大丈夫では?」という気持ちがどこかにあったように思います。しかし、診断実務でこうした場面に出あうと、改めてその重要性に気づかされます。報告の場で、社長に“こんなことは言っていない”、“この提案は大丈夫か?”と言われた場面を想像したら「ぞっ」としました。
診断実務は、チーム活動であるため、各メンバの認識が異なっている場合もあります。しかし、事実は正しく把握し、社長に納得してもらわなければなりません。2次試験も同様です。
もう一つ、実際の試験問題から与件の重要性に関係する例を出します。
<平成26年度 事例Ⅲ 第2問>
C社の切削工程で問題視されている加工不良率の増加について、その改善を図るために必要な具体的対応策を100字以内で述べよ。
C社では、加工不良率が問題になっており、与件でも「切削工程の加工精度は、自動旋盤の精度に左右される。設備オペレーターが故障対応に主眼を置いて、それぞれの経験で行っている自動旋盤のメンテナンスについての対策が必要となっている。C社のコストに占める原材料費の割合は高く、切削工程での加工不良率の増加による歩留まりの低下傾向とともに問題視されている。」と書かれています。
この設問に対する解答例を2つ上げます。
解答例1:
具体的対応策は、①自動旋盤の使用頻度や故障の保全状況の管理を実施し、連続生産の監視体制を強化すること、②品質管理の徹底を図るために、加工不良の統計を収集し工程の分析を行い、歩留りの向上を図ることである。
解答例2:
具体的対応策は、①故障対応に主眼を置いた自動旋盤のメンテナンスを予防保全に変更することで加工精度を上げる、②設備オペレーターがそれぞれの経験で行っている作業を標準化することで歩留りの向上を図ることである。
解答例1と解答例2の違いはなんでしょうか。どちらもそれなりに点数が入りそうに見えます。解答例1は、1次の用語も多めに入っていて専門的な解答っぽい印象を与えるので、いいのではないか?と考えるかもしれません。
解答例1と解答例2の最も大きな違いは、「与件文の使い方」です。
解答例2の文章構成は、「具体的対応策は、①因(与件文)+提案+果(効果)、②因(与件文)+提案+果(効果)、ことである」となっています。「因」に与件文を丁寧に用いて問題点を指摘し、「果」で与件の課題に対する効果を記述しています。
どちらが良い解答かと聞かれたら、私は、解答例2が良いと答えます。なぜなら、与件文が適切に使われていることで、「事例企業の社長(採点者)が自社のことだと一目でわかる」、「事例企業のどこに問題があるかが明確」、「事例企業の課題にきちんと答えている」、「読んだときに理解するまでの時間が短い」からです。
解答1のほうは、「あっていそうだが、本当のところどうなのか、よく考えてみないとわからない」、「それを考えるのに時間がかかる」という内容になっていると思います。事例企業の社長(採点者)からすると負担がかかりますし、自社のことではなく一般論のように感じるかもしれません。
ということで、2次試験において、与件文は重要であることと、その活用方法について、お伝えしました。何かの参考になればと思います。
2015.04.25 H27年度 副会長 甲田